なぜ「定年卒婚」が増えるのか

なぜ「定年卒婚」が増えるのか

「定年」を機に人生をリスタート

夫が定年退職したら、夫婦揃ってのんびり老後を過ごす──。

かつてはそれが定年後の夫婦の当たり前の姿だと思われていました。

しかし、今、50代前後の女性たちの間では、夫の定年を機に「卒婚(そつこん)」を考えている、という人が増えています。

卒婚とは、「婚姻関係(法律上の夫婦の籍)は維持したまま、お互いに干渉せず、それぞれの人生を自由に歩む新しい夫婦のあり方」のこと。2004年に杉山由美子さんが著書『卒婚のススメ』で提唱した造語です。

これまでは、一生添い遂げるか、離婚するかの2択しかなかった夫婦関係に、新しい選択肢として注目されるようになりました。

意外かもしれませんが、厚生労働省の「離婚に関する統計」によると、全体の離婚件数が減少傾向にあります。若い世代での結婚する人が減少していることも関係しており、離婚件数は右肩下がりとなっているのです。

しかし、その一方で同居期間が20年以上のいわゆる「熟年離婚」が占める割合は21.5%(2020年時点)と過去最高を記録。1990年の13.9%から約1.5倍にも増加しています。

このように「法律上の別れ」を選ぶ夫婦が増えると同時に、あえて籍を抜かず前向き「卒婚」をするケースも珍しくなくなってきています。

卒婚を選ぶ理由は?

なぜ今、定年後の「卒婚」を意識する夫婦が増えているのでしょうか?

「夫の母親」からの卒業

熟年夫婦世代は、結婚してから数十年、妻は家事や育児、夫のサポートを最優先にしてきたという家庭は少なくありません。

夫が定年を迎えると、「毎日3食のごはんづくり」「定年した夫がずっと家にいたら、息がつまりそう」「今さら夫という大きな子どもの世話をしたくない」などなど。 卒婚を意識する妻は、そんなストレスからは逃げ出して、自分の時間を楽しみたいと考えています。

人生100年時代。今度こそ自分らしく生きる

夫の定年を意識するのは50代。いまどきの50代はパワーにあふれて、まだまだ元気です。

しかも、いまや人生100年時代が到来。「私の人生、このまま夫の世話だけで終わっていいのだろうか?」と、残りの50年の人生をどう自分らしく生きるかを考えるようになります。

あきらめた趣味、やりたかった仕事、行きたかった場所…。元気なうちに、自分の足で自分の思うような人生を歩みたいという気持ちがムクムクと湧いてくるのです。

博報堂生活総合研究所が発表した「シニア40年変化調査(2022年)」という興味深いデータがあります。

この30年間でシニアの夫婦観はガラリと変わり、「配偶者と同じお墓に入りたい」「夫婦で共通の趣味を持ちたい」という人の割合は、それぞれ20ポイント以上も低下。代わりに、お互いを尊重し合うフラットな「友達夫婦」のような関係を理想とする人が約8割(77.3%)もいます。

この調査には、もうひとつ注目すべきデータがあります。

実際に「離婚したい」と考えているシニアはわずか12.7%であるのに対し、「卒婚したい(婚姻関係は維持しつつ、お互いの人生に干渉しない)」と考えている人は39.5%と約4割も。

さらに男女別で見ると、男性の30.4%に対して女性は48.3%と、なんと約半数の女性が卒婚にポジティブな関心を持っているのです。

「嫌いになったわけではない」という絶妙な距離感

卒婚の最大のポイントは、「相手が憎くて別れるわけではない」という点です。長年連れ添った戦友としての情やリスペクトはあるからこそ、「お互いが一番心地よくいられる距離間感」を探った結果が、卒婚です。

卒婚を成功させる「3つの条件」

もし、あなたが「将来、卒婚もいいな」と考えているなら、今から準備しておくべきステップがあります。

Goensが50代の既婚者を対象に実施した調査(2023年)によると、「卒婚を希望・憧れているものの、現実に一歩を踏み出せない」理由のトップ2が、「手続きの面倒さ(41.9%)」と「経済的不安(40.7%)」です。

勢いだけで卒婚を進めてお互いが不幸にならないためにも、以下の条件をクリアにしておきましょう。

経済的な自立(または事前の取り決め)

別居するにしても、同居のまま個人の時間を過ごすにしても、お金の問題は避けて通れません。年金分割や今後の生活費のシミュレーション、財産分与的な取り決めはトラブル防止のためにも必須です。

十分な話し合いとルールづくり

お互いが納得できてこそ、幸せな卒婚が成功します。まずは「あなたが嫌いだから離れるのではない」という意図を明確に伝え、夫側にも理解してもらうこと。連絡手段や頻度、病気・介護が必要になったときのルールなども決めておきましょう。

お互いへのリスペクト

離れて暮らす(または干渉しない)ことで、かえって相手のありがたみがわかることもあります。お互いの自由を尊重し、リスペクトし合える関係を大切にしましょう。

卒婚は「ネガティブな終わり」ではない

定年卒婚は、決して、家族の崩壊でも断絶でもありません。データが示すように、シニア世代の夫婦関係が「いつもべったり一緒」から「個人を尊重した関係」へと進化している証拠ともいえます。

夫婦だからずっと一緒にいなきゃいけない。そんな固定観念に縛られて、人生後半戦をあきらめて過ごすのはもったいないですよね。自分たち夫婦にとって、どんな未来がベストなのか、悔いがないように考えてみてください。

この記事を書いた人

TORIKO