夫婦とお金

お金さえあれば?
「お金があれば、夫婦の問題は解決する」
みなさんはこれをどうお考えですか?
これは、いわゆる生命維持や生活インフラの部分においては正しいかもしれません。
しかし、現実の世界はそう単純ではないことぐらいお分かりだと思います。お金というものは不思議なもので、あったらあったで、問題が次々と押し寄せてきます。
頼んでもいないのに、トラブルの方からやってきます。きっと、お金という強烈なエネルギーが人々の心を激しく突き動かしてしまうのでしょう。
「貯める派」と「使う派」
カウンセリングの相談でよくあるのは、「なぜそんな使い方をするのか」「どうして分からないのか」といった感情的な対立です。
家計簿の数字をどれだけ正確にしてもケンカをしてしまうのは、問題の根っこが「数字」ではなく、その裏側に隠れた「感情のぶつかり合い」にあるからです。
たとえば、「貯める派の妻」と、「使う派の夫」がぶつかった場合、
★妻の言い分★
お金がないといつか大変なことになる
お金がないと不安だ
貯金通帳の数字が増えることが幸せ
★夫の言い分★
今この瞬間の体験を大切にしたい
好きなものだけに囲まれたい
お金を使えば優越感にひたれる
この2つは単なる好みの違いではありません。どちらも、その人なりに「自分を守ろうとしている」のです。
つまり、妻は「将来の不安」を消し去りたいために貯め込み、夫は「孤独感や不足感」を埋め合わせようとしているのです。
ようするに、目的はどちらも同じ「安心したいから」。しかし、行動は真逆になっています。
マネースクリプト
「お金がないと惨めな思いをするぞ」
「お金があっても家族の笑顔がないと意味ないぞ」
これらはどちらが正しいという問題ではなく、その人の人生が作り上げた「生きるためのルール」です。
目的は同じでも、行動は真逆になり、感情はぶつかります。
それは、子供の頃の家庭環境や、過去の苦い経験から「お金とはこういうものだ」という強力な思い込み(マネースクリプト)に囚われている場合があります。
ファイナンシャルセラピー
アメリカでは「ファイナンシャルセラピー(Financial Therapy)」という専門分野が確立されています。
2008年の世界金融危機(リーマンショック)をきっかけに注目が集まり、現在ではファイナンシャルセラピー協会(FTA)という専門組織も存在しています。
これは、FP(ファイナンシャルプランナー)による「実務的な資産運用」と、FT(ファイナンシャルセラピスト)による「心理的なアプローチ」を融合させたものです。
従来、お金の問題は数字の計算や合理的な判断だけで解決できると考えられてきました。しかし、実際には多くの人々が、頭では理解しているにも関わらず、不合理な金銭行動をとってしまうという課題を抱えています。
この矛盾を解消するために、お金に関する知識の提供だけではなく、その行動の背後にある「マネースクリプト(お金に対する無意識の思い込み)」を特定し、感情や思考、過去の経験に深くアプローチするのが、ファイナンシャルセラピーの核心です。
安心の定義
夫婦間の金銭的な不和において、ファイナンシャルセラピーのアプローチは極めて有効です。それは単なる収支のズレではなく、お互いのマネースクリプトが衝突し合っていることに問題の本質があると考えられるからです。
一方が節約を重視し、もう一方が投資や消費を重視する場合、それは性格の不一致というよりも、それぞれの人生が形作ってきた「安心の定義」が異なっているに過ぎません。
お金は、人生を豊かにする最高の道具にもなれば、関係を蝕む怪物にもなり得ます。「誰が悪いのか」という責任論ではなく、お互いが「この課題をどうマネジメントするか」という視点を持つことが大切です。
私たちは「お金を増やすこと」をサポートするのではなく、「お金に振り回されない夫婦関係をつくる」ことを目指し、夫婦の絆をしっかりと結び直すお手伝いをいたします。
そして、お互いの「安心の定義」の違いを見つけ出し、それを翻訳し、お互いが納得できる共通の定義を築くための安全な対話の場を提供いたします。
この記事を書いた人

矢部 和也
cochi 事務局 キャリアコンサルタント。大学で心理学を学んでいる社会人学生です。夫婦の関係性について社会正義の視点で研究しています。テーマは「個人心理と社会構造から見る現代夫婦のあり方について」夫婦の幸せを“心の問題”と“社会の仕組み”の両面から捉え、新しい夫婦の形を提案しています。



